ケとハレ、そしてケガレ

今、雛祭りの時期です。

雛祭りの源流は何かと言うと、「人形(ひとがた)」による邪気祓いの儀式といわれています。
今コロナが流行の兆しを見せはじめていますが、遠い昔、医学の発達もなく、成人する前になくなる子供達はたくさんいたのです。
そういった子供達のために、病気を代わりに引き受けてくれる「人形(ヒトガタ)」を川に流す。


このプロジェクトでは、1つ目標があります。
人吉球磨の伝統や文化を今までとは違った視点で見つめ直すこと。
人吉球磨は日本文化の縮図と言われています。
祈りは今回のコア・コンセプトでありますが、これも文化の1つと捉えてみたいと考えています。

雛祭りは、ハレと呼ばれる日です。
ハレという概念は、民俗学の概念で、柳田國男が最初に提示したといわれます。
民俗学は、日常の暮らしをつぶさに研究することで、理論を導き出そうとするフィールドワーク学問です。理屈や理論で公式を導き出す学問と異なる泥臭い学問です(理屈や理論をで公式を導き出す学問を批判しているわけでありません!)。庶民の暮らしを立体化し、日本人の精神構造や文化を考える学問です。

民俗学の父である柳田はハレとともにケという概念を示しています。
ハレは節句や祭りなどの「非日常」であり、ケその対局の「日常」。
1970年代には、柳田が提示したその概念を受け継いだ民俗学者らによりもう1つの概念が提示され始めます。それが「ケガレ」でした。
詳しくは「共同討議 ハレ・ケ・ケガレ 青土社」をご参考にされてください。
当時の民俗学の第1線で活躍されている学者らがシンポジウムで語られています。

要約すると、ハレとケの間に、ケガレという概念がある。
ケからハレの状態を人々が必要とする根拠、橋渡し的な概念が必要なはず、
それがケガレであると。
特に注目すべき議論は、ケガレの概念は様々にあり、穢れなどの不浄の意味のみでなく、日常のエネルギーとして「ケ」を捉え、それが欠けていくのが「ケガレ」という考え方です。
そこには、ハレに注目しがちな現代にあって、ケこそが大切な日々であり、健康的な生産的な状態。
そのケを取り戻す儀式などがハレであるというアプローチです。

中世以降漢字が庶民にも普及しだし、様々な漢字が当てはめられました。
褻、毛、笥、など。
褻は衣服をとる、つまり素っ裸の状態で、日常の状態。反対を晴着といいます。
毛は、毛髪とは別に、稲をはじめとする作物、植物全体を指したといいます。「けつけ」という言葉があり、それは稲をつけるという意味を持つ地域もあったそうです。笥(ケ)とは容器ですが、ご飯を入れるに限らずなんでも入れることができた器を指しました。


昔は、農耕社会でした。
自然を相手にしながら、米や野菜などを季節に合わせ育て収穫していました。
村人と協力しながらの作業ですから、何かしらの人間関係も発生しているはずです。
それは肉体的にも精神的にも当然疲れてくるもの。当然と書きましたが、古来の人々は今の感覚とは当然と異なります。
ここが大事だと感じています。
今の感覚でのみ「過去の全てを解釈」することは良くなく、出来るだけ当時の人々の環境や立場で考えて解釈することがとても大事だと感じています。医学や科学がない時代、古来人々は「人間頑張ったら疲れるのは当然のこと」とは考えられてなかったようです。

人々はケという概念に、「気」という漢字をあてはめました。
古代中国の概念を取り入れつつも、古来日本人が暮らして得た感覚をミックスされた独特の概念といってもいいと思います。幅広く使われるようになります。

日本にとって重要な概念でした。
例えば「元気」という言葉は、気が元に戻ると書きます。つまり気という状態は健康で、生産的な状態を示しています。病気は「気が止む」というのが元来の意味だそうです。これも健康な生産的な状態が止んでしまう。気が止(や)んでしまう。それをケガレと呼び、気・枯れ、もしくは気・離れ(ケ・ガレ)という。
中世以降漢字が庶民にも普及しだし、ケガレには汚れ、穢れ、など様々な漢字が当てはめられました。


先ほど、「昔の人々は人間は頑張りすぎたら疲れるのは当然とは考えられてなかった」
と述べましたが、現代でも、人間頑張ったら当然疲れる、限界があるとわかっているようでわかってないのかもしれません。

頑張り過ぎて心や体を壊してしまう方がどんどん増えています。頑張り過ぎは、気が枯れ、気が離れ、の状態です。

人吉球磨には、ケの状態に戻る仕掛け、自然やたくさんあります。それはハレそのもの、それが人吉球磨なのかもしれません。

”気枯れた”あなたの心と体に再び気を溢れさせる、「人吉・球磨 風水・祈りの浄化町」へどうぞお待ちしております。

※今回ご紹介した内容については様々な解釈があります。
参考文献/「共同討議 ハレ・ケ・ケガレ (青土社)」 加藤周一「雑種文化(講談社)」柳田國男「日本の民俗学 (中公文庫)」ほか

文/佐藤圭 球磨郡錦町生まれ。人吉高校卒、早稲田大学政治経済学部卒。日本郵船(株)において欧州輸入や船舶投資など経験。その後国会議員秘書や先端医療事業経営企画など経て現在は(一社)人吉球磨ブランディング研究所代表理事。 

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