令和4年10月上旬の掲示板より

 明導寺さんは一昨年、仏教伝道協会主催の掲示板大賞において見事「仏教伝道協会大賞」を受賞され、大賞に選ばれた言葉が雑誌「女性セブン」に取り上げられました。

 また、10月3日のNHKニュース「おはよう日本」で明導寺掲示板が取り上げられました。

  明導寺藤岡住職の解説と共に10月上旬の掲示板の言葉をご覧ください。

<明導寺 10月上旬 掲示板の言葉>

 心の複雑骨折を繰り返しながら
   自然治癒力を身につけていくものが
    人生というものなのかもしれない 

         【夏井いつき(俳人・エッセイスト)】

 
 爽やかな秋らしい天候が続いていますが、山々に囲まれた人吉・球磨地方では、早朝に霧がかかることが増え、本格的な秋の到来を感じる季節となりました。
先月は台風14号が九州に上陸。今まで経験したことのないような暴風雨に見舞われ、長時間にわたり台風が居座ったことで、恐怖を感じた方も多かったことだと思います。
何とか危機一髪のところで球磨川の氾濫には至らず、胸をなで下ろしているところですが、いまだに球磨川の水は濁ったままで影響の大きさを物語っています。  
 また、私が住んでいる湯前町では、崖崩れや河川に大量の木石が流れ込んだり、家屋の屋根が破損するなど想像以上の被害が報告されており胸を痛めているところです。

 「令和二年七月豪雨」の甚大な被害から、本格的な復興へ向けて道路工事や河川の整備などが進んでいただけに、今回の被害で振り出しに戻された状況となり、「またか」と落胆されている様子を拝見し、心を痛めています。

 
 さて、先々代の住職であった祖父が甲斐和里子さんの作と言われている歌

岩もあり 木の根もあれど さらさらと たださらさらと 水の流るる

 を生前に揮毫し、お世話になった御門徒さんにこの書を寄贈したことから、どのような味わいで筆を持ったのかと、見る度に思いを寄せる時間となっています。

 日本三大急流のひとつである球磨川の水は、大きな岩が横たわっていようが、木石があろうが上流から下流に向けて、ただ「サラサラ・・・」と音を立てながら流れてゆきます。
 紆余曲折がある私たちの人生の中で、想像を絶する困難に遭遇し、生きてゆくことも辛く苦しい時期を過ごして来られた方も多いのかもしれません。
しかし、その苦境を受け止め、「さらさら」とはいかないまでも、これまでの人生を歩むことができたのは、仏さまが私を包み照らしてくださるからであり、そのことを表現するべく祖父は、この歌を揮毫したと味わっています。

美しい球磨川の水が山間に流れ込む雨水によって一瞬にして濁るように、
順風満帆に思えた人生が、一時的な解決ばかりを追い求めてしまうが余りに
瞬く間に不安感や喪失へと陥る危険性をも孕んでいる私たちを
丸ごと抱えてくださる仏さまのはたらきによって安心の人生を歩むことができるのです。

 球磨川が台風14号の影響で濁水となっている現状から脱却し、透き通った川水があたたかな光を浴びながら、木石に遮られることなくさらさらと流れゆく景色が人吉・球磨に広がることを楽しみに待ちたいと思います。

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