明導寺さんは昨年、仏教伝道協会主催の掲示板大賞において見事「仏教伝道協会大賞」を受賞されました。
明導寺藤岡住職の解説と共に11月上旬の掲示板の言葉をご覧ください。
<明導寺 11月上旬 掲示板の言葉>
雑にするから 雑用になる
先日の秋彼岸法要に八代市の木下明水先生(勝明寺さまご住職)にお越し頂きました。
有難いご法話の中で、タレント時代に2時間ドラマの帝王・船越英一郎さんと初共演されたとき、撮影後におっしゃった船越さんの言葉が未だに印象に残っていると話されました。
その内容は、船越さんが初めてのドラマ撮影にサラリーマン役として挑まれたときの話。
会社の重要書類を「お待たせしました」と一言だけ述べ、机に置くというシーンですが、その演技を、何度くり返しても監督さんからOKが出ず、途方にくれた船越さんは、「私の演技のどこが悪いのですか?」と思わず監督さんに尋ねます。
すると、監督さんは以下のように返されたのです。
お前が手にしている書類は、会社がひっくり返るぐらいの重要な書類だ。その大切な大切な書類を、お前のように粗末に扱う者がいるか?本当に大事な書類であれば、胸に押し頂いてこの部屋に入ってくるはずだ。大事なものを大事に扱うことによって、その大事さが伝わる。そうだろ?
この思い出をご紹介いただいた後、木下先生は「本堂を大事になさいませ」
「お仏壇を大事になさいませ」「仏さまを大事になさいませ」と続けられ、
その大事にされている姿を通じて、子や孫へその大事さが伝わるのだとご教示下さいました。
普段の生活の中で、何度も同じことを繰り返していくと、飽きる性分を持ち合わせており、無意識のうちに行動が雑になり、心を置き去りにした行動を取りがちな私たちに「もったいない」という言葉が大きなメッセージを投げかけているように感じます。
本願寺第八代宗主・蓮如さまは、廊下に落ちている紙切れを拾い上げ、
一枚の紙もこれみな仏法領のもの、もったいない
と仏さまから恵まれた物として紙を押し頂かれるお姿があり、この様子を見られた方々により「もったいない」という言葉が広く使われるようになったとも言われています。
少し前の話になりますが、2002年に「ノーベル化学賞」を受賞した田中耕一さんは、民間企業のエンジニアの初受賞で大きな注目を集めましたが、
ご自身の著書『生涯最高の失敗』の中で「もったいない」の言葉についてふれられています。
大学入学までいっしょに住んでいた祖母からはものを大切にする精神を受け継ぎました。
幼いころ、紙をくしゃくしゃにして丸めて捨てようとしたら、「なんちゅう、もったいないことをすんがけー。ばちあたりな。鼻紙に使えるがに。」と怒られました。私がノーベル賞をいただくきっかけとなった発見をすることができたのは、間違った薬品を混ぜた試料をもったいないと捨てずに使ったからですが、そう思ったのは、子どものころから耳にたこができるほど「もったいない」と言われ続けてきたからです。
「もったいない」は、単に「無駄にしない」「節約する」という意味だけでなく、形には表れない大切なものに思いを寄せ、物の裏側にある意味を感得することにより生じる「かたじけない」という感謝の心が含まれているのです。
自分自身の慢心により、雑で荒々しい行動をおこしてしまっている自分自身をみつめ、忙しい日々だからこそ、より丁寧に丁寧に過ごしていきたいと思います。